ある日の夕方のことである。
成城の駅前にあるコーヒーショップに入る。 若い女性が独り、携帯電話の画面に見入っている。 その隣のテーブルにはずんぐりむっくりの男が、テラスでありながら壁側を向いて本でも読んでいるのか背中を丸めて座っている。 そして、今にも泣き出しそうな表情で男の話をうつむいて聞いている女。その隣のテーブルには人はいない。椅子にはショッピングバックが2つ、ひょっとしたら2人連れの荷物なのか? タバコの吸えるテーブルは、テラスにあるその4つしかなかった。 店内はがらんと広く、ノートパソコンを前にした外国人。バレーの帰りなのか髪をリボンで丸くまとめた女の子とその母親らしき婦人。お喋りに熱中する3人の年配女性。ぼんやり何を見ているのか独りの年配男性。ぱらぱらと独りづつ座った他の人たちは本を読んでいる他は携帯電話の画面を眺めている。 お客のしぐさは静かだが、店内にはレゲイの曲が「あたしゃ勝手にやってます」・・・と流れている。 注文のコーヒーを手にして外を見ると、2人連れが席を立って帰り支度をしているところだった。 「灰皿を貸してください」 「はい、かしこまりました。どうぞお使いください。店内は禁煙になっておりますので、外のテラスでお吸いください」 「灰皿一つに長い台詞だ」そう思いながらも、しっかり最後まで聞いて「はい、ありがとう」とテラスに出る。 「ラッキーだったなぁ~、これでタバコが吸える」とタバコの煙をめいっぱい飛ばす。 すぐ前の道路には自転車が何台も置かれている。その向うには交番があって、防弾チョッキを着た警察官が緊張感もなく暇そうにうろうろしている。TAXIが忙しくバタンバタンを繰り返している。乗り場には何人かの列。少なくなることはない。 目の前を通る人たちを見ながらコーヒーを一口。 鑑賞できる人も通らないし・・・ただぼんやりもなんだなあ~~ と、バックからいつも持ち歩いている原稿用紙を引っ張り出す。 ・・・ ・・・ 別に書くこともない。何も浮かばない。頭がカラッポである。 ・・・仕方がない、ぼんやりするかと思った瞬間。 「あれ?」と声。 壁に向っていたずんぐりむっくりの男が、ボクの方に声をかけてきた。 ダボダボのコットンパンツに、あさぎ色のTシャツ、皮のサンダル。 片手には呑み終わったマグカップ。温和な顔立ちだが、かなり地味な大男だった。 「いや~ お久しぶりですねえ。お元気ですか?」 「あややや ほんとお久しぶりで・・・」そうは言ったが、その男に見覚えがない。 「ひょっとしたら人違いしてるんじゃないかな?」 「その節は色々お世話になりまして」 「あ、いや、こちらこそ・・・」応えたが、どうにも思い出せない。 ・・・これは困ったぞ。何かヒントになる言葉でもかけてくれないかなぁ~ 「あれ? こちらはなんで?」先制攻撃をかける。 「あ いや 最近こちらに住むことになりまして」 「・・・ヒントにならない」一寸困っていると 「お独りですか?」と来た。 ・・・危ない。話が長くなっては困る。 「いや、ちょっと人を待っています・・・」 「そうですか。ではお邪魔になるといけませんね。それでは、失礼をいたします」 男はニッコリして立去った。 やれやれ・・・しかし、あれは誰だろう? どういう関係だったのだろう。 ちょっとハゲていたなあ~~ 同じ位の歳だなあ~~ いや、一寸向うの方が若かったかな? どうにも思い出せないままに、一旦バックにしまった原稿用紙を引っ張り出した。 そして、これを書いている・・・。 ・・・こんなつまらないことを書いてるやつはいないだろうなぁ~~ と思いつつ。。。
by jam909jam
| 2006-09-25 11:54
| ◆独り言
|
カテゴリ
リンク
以前の記事
その他のジャンル
|
ファン申請 |
||